Special Interview!!

 2019年1月某日、都内スタジオにてエフェクター研究家、蒐集家の細川雄一郎氏によるFlyingTeapotインタビューが行われました。全機種の解説から、ブランドのコンセプトや背景まで、深く掘り下げたインタビューとなっているので是非ご一読ください!

全機種インタビュー

・088 Over Drive

 

ー088 Over DriveはTS系のオーバードライブとのことですが、好きなオリジナルのTSっていうとどのモデルが浮かびますか?それとも、オリジナルのTSはあまり好きではない?

 

菅野:う~ん、好きではない部分もあります。例えばバイパス音がバッファードだと、通しただけで音が変わってしまう。それが好きな音であれば良いんですけど。

 

ーでは、この088 Over Driveは意図的にトゥルーバイパスにしているということでしょうか?

 

菅野:そうですね。他にバッファードバイパスのモデルもあるのですが、これはトゥルーバイパスです。

 

ーDriveコントロールを操作してみると、少し歪む程度の音色の幅が広い気がします。それは意識して作られているのでしょうか?

 

菅野:色んな人に使ってもらえるような操作性、という意味では意識していたと思います。

 

ー 3モードスイッチのV、F、Bは、それぞれどのようなことを意味しているのでしょうか?

 

菅野:VはVintage、FはFat、BはBrightです。効果はその名前の通りですね。

 

ー Bモードは個人的に好みの音ですね。

 

菅野:単体の歪みペダルとして考えると、Bが使いやすいと思います。TSをブースターとして捉えている人も多くて、アンプをプッシュするって用途ではVモードが良いと思いますね。

 

ーちょっとMarshallの歪みチャンネルで試してみます ___あ、確かに良いですね。この用途ではFモードも良いように感じます。

 

菅野:そうですね。

 

ーオススメのセッティングはありますか?

 

菅野:アンプをプッシュするブースターとしては、VモードでLevelをフル近くにして、Driveは1~2時、Toneも1~2時くらい。単独のオーバードライブとしてはBモードで、Levelは少し下げてDriveを上げて、Toneは少し下げ目になると思います。Fモードは根本的に考え方が違って、Driveをかなり絞ってToneを少し上げるくらいにすると、クリーンサウンドでファットな音色を作るEQ的な使い方ができるんですよ。

 

ープリアンプ的な使い方に近い?

 

菅野:そうですね。ジャズ寄りの音色を作るときに重宝するとの評判をもらっています。

 

ーこのモデルの開発で苦労した点などはありますか?

 

菅野:自分の中でTS系に求めるもの、音のイメージが固まっていたので、開発自体はそこまで苦労しなかったと思います。Toneのカーブ、パーツの選定では少しだけ悩みましたけどね。

 

ーちなみに、このモデル名の”088”にはどんな意味が?

 

菅野:まぁ、名前だけでどんなものかが解りやすいモデル名ということぐらいですよ。あと、しょうもない話なんですけど、うちの実家がもともと八百屋(※一部でTS808のこともヤオヤと呼ぶ習慣がある)をやってまして、その店名がマルハヤって名前なんですよ。088=マルハヤってことですね(笑)。

 

↑内部パーツについて解説中

 ・Omega Drive

 

菅野:これは歪みというよりブースターに近くて、その中で”Bright”を使って音色を調整していくエフェクターですね。

 

ーToneやTrebleなどではなく、あえてBrightと表記しているということは、一般的なトーンコントローラーとは異なるものなのでしょうか?

 

菅野:パッシブではなくアクティブ回路のコントローラーなんです。ツマミを回していくと解ると思うのですが、一般的なパッシブのコントローラーと違って、絞っても音が籠らないんですね。0(ゼロ)の状態からどんどんブライトにしていく、という意味でBrightという名前にしました。

 

ーこのBrightコントローラーはどんな用途に向いているのでしょうか?

 

菅野:Delta Fourthもそうなんですけど、Omega Driveはギターのトーンを操作する前提で設計していて。

 

ーギターのトーンをちょっと絞っておいた方が良い、ということでしょうか?

 

菅野:そうですね。Omega DriveのBrightを少し上げ目にして、ギターのトーンを7くらいに絞っておくんです。そこを基準に音を作ることで、例えばカッティングしたいなって時にギターのトーンを操作するだけでサウンドを目立たせたりすることができるんです。

 

ーギターはあえて少しこもった状態にしておくんですね。

 

菅野:逆にギターのトーンをフルの状態で音作りをすると、少しブライト過ぎるかもしれません。手元でトーンを絞ると丁度良くなるくらいだと思います。

 

ーミニスイッチにあるこの“AMP”は、どのようなことを意味しているのでしょうか?

 

菅野:“Saturation”のモードではダイオードを使った歪みになるのですが、”AMP”モードではGainを上げたときにオペアンプの歪みが生まれるんですね。そうすると飽和感というよりもアンプのような張りのある歪み感になります。

 

ーこの機種は内部にもスイッチがありますよね。そのスイッチはどんなものなのでしょうか?

 

菅野:裏メニューのようなつもりだったのですが、これはBrightの幅を拡張するスイッチです。トーンコントローラーの幅が広いと、どうしてもセッティングが難しくなっちゃうので、通常はある程度に狭めているのですが、トレブルブースターのように使いたい方は、この内部のスイッチでBrightの幅を広げて使えると思います。

 

ーオススメのセッティングは?

 

菅野:Volumeは適宜ですが、Gainは下げ目で9時くらい、Brightはギターのトーンを使う前提で2時くらい、ミニスイッチはAMPモードの方が好きです。もちろん、歪みを作る用途であれば、Saturationモードになりますね。

 

ーモデル名の由来はどんなことでしょうか?

 

菅野:先にDelta Fourthができていて、同じギリシャ文字使わないとな~と思って究極という意味で使われることもあるOmegaにしたんですよ。まぁ、個人的にはオメガトライブも好きなので(笑)。僕は日本の80年代のポップスがすごい好きで、そのサウンドってすごい目立つっていうよりは、しっかりオケに馴染ませて印象に残るサウンド、っていうイメージがあるんです。例えば聞き馴染みのあるカッティングも音量は小さいのにブライトなサウンドが耳に残っていたりだとか。その質感を残していきたいなと思っています。

 

↑おすすめのセッティングを紹介

・Delta Fourth

 

ー実際に弾いてみると、まずギターのボリュームを絞った時の音が非常に綺麗ですね。

 

菅野:そうですね。Delta FourthとOmega Driveはギター側でコントロールする前提で作っているのですが、中でもこのDelta Fourthはハイエンド系のアンプで使うことを想定しています。

 

ーそんなマニアックな仕様をなぜ?(笑)

 

菅野:そういったアンプだと、アンサンブルの中ではどうしてもローが出過ぎるんですよね。Bassmanなどのヴィンテージアンプでもそうですが。でも、アンプの方でそのローをカットしてしまうと、音の美味しいところが全部なくなっちゃうんです。そんな時にベースをカットして、高域が抜けてこないアンプのトレブルを上げれるようなエフェクターなんです。

 

ーアンプありきということですね。

 

菅野:そうです。あと、ハイゲインアンプだと低域がボワっとしてしまって、ベースやバスドラと被ったりしがちだと思うんですけど、Delta Fourthではローの輪郭を残しながらボワっとした部分だけを切るということができるんです。

 

ーなるほど。では、あえてスタジオにあるようなアンプで例えると、Fender Twin ReverbよりもMarshall JCM2000などの方が相性が良い?

 

菅野:そうですね。ただ、Twin Reverbがファットなセッティングになっているようなら別ですね。

 

ーちょっとTwin Reverbのベースを上げて試してみますね。____確かに、綺麗な音になりますね。これはむしろ、どこにでもあるTwin Reverbがもっと良いアンプに変わったような感覚ですよ。コンセプトに倣って使うと、すごい効果を発揮しますね。

 

菅野:ありがとうございます。難しいエフェクターだという認識はあったんですけど、説明をちゃんとすれば解ってくれるのかなと思っています。

 

ーこのセッティング(Volume 4:00 Gain 9:00 Treble 12:00 Bass 12:00 )が大好きですよ。アンプの質が上がったような感覚です。この機種のオススメのセッティングは?

 

菅野:まさにそのセッティングです(笑)。

 

ー一聴するとオーバードライブのようなんですけど、設計意図の通りに使うと本当に良いプリアンプのような感覚ですね。

 

菅野:そうですね、掛けっぱなしにして使えるようなつもりで作りました。あと、MUSES 8920というオペアンプを使う、ということがやりたかったんですね。元々、8920を使ったエフェクターがあって、それも音が良かったんです。

 

ーそのオペアンプのどんなところが良かったのでしょうか?

 

菅野:オーディオ用オペアンプの部類なんですけど、その割にハイファイ過ぎない。ギターに使っても音が硬過ぎたり、速過ぎたりせず、落ち着いていることですね。Delta Fourthは内部にバッファーもなく、1石のオペアンプだけで回路を完結させているので、その優位性が特に高いですね。そのオペアンプ以外の部分の音色をフラットにするために抵抗やコンデンサーは揃えていて。

 

ーつまり、このオペアンプの音を聞けと(笑)。結果としては結構マニアックなコンセプトですね。

 

菅野:そうなんですよ(笑)。Omega Driveも同じオペアンプを使っていて、元々は1つの機種から2つに別れたんです。

 

↑アンプのセッティングも操作して音を作っていきます

・FUZZ

 

ーこれはトランジスタが3石?どんなファズなのでしょうか?

 

菅野:計3石なんですけど、+(プラス)スイッチがOFFの時は2石しか使っておらず、Fuzz Faceのような回路とサウンドで、プラススイッチがONで3石になり、Tone Bender系の音色になります。

 

ーなるほど。エフェクターオタクにありがちな質問なんですけど(笑)、そのトランジスタも苦労して選定したようなものなのでしょうか?

 

菅野:型番の選定よりも、トランジスタごとの増幅値の選定ですね。すべてのトランジスタを計測して、同じバランスになるように組み合わせています。

 

ーそのバランスが異なると音色も大きく変わってしまう?

 

菅野:そうですね。それが味にもなるんですけど、そこまで大きく変える必要はないだろうということで。

 

ー筐体の素材はなんでしょうか?大きさの割に結構重いですよね。

 

菅野:これは厚めのステンレスですね。筐体だけで500gくらいありますよ。ファズは『重い方が強い理論』あるので(笑)。あと、ファズだけボードの外に置いてあることって結構あるじゃないですか。ボード内のインピーダンスの問題とかで。その時に軽いと動いちゃうので、より安定性の高いものを、ということですね。

 

ーなるほど。このHPスイッチはどのような狙いで付けられているのでしょうか?

 

菅野:ファズ通だったらガンガン音量上げて使うと思うんですけど、このHPスイッチをONにすると小さい音量でも音が抜けてくるんです。あと、+スイッチと同時にONすることを考えて作っています。スライドした時の質感にこだわっていますよ。

 

ー確かに良いですね。このGateはどんな効果を得るためのコントローラーなのでしょうか?

 

菅野:僕の中では、実はいかにもゲートらしい効果を得るってことが狙いじゃないんですよ。ギターのボリュームを絞る際は、Gateのセッティングがキモになっています。ギターボリュームを絞っている際はGateがトーンのように効くんですよね。

 

ー確かにそうですね。ボリュームを絞って綺麗な音を目指すファズって結構あるし、それはそれで優れていると思うんですけど、そこを調整していろんな音を出せるっていうのは良いですね。

 

菅野:そうですね。あと、元々Gateっていうコントローラーを付けるつもりはなかったんですが、+(プラス)モードにした際にGateを音が出るか出ないかギリギリに設定した時の音色がめっちゃくちゃに良いんですよ。

 

ーよく解ります。内部は結構ヴィンテージ系のパーツを使ってますよね。そこにもこだわりが?

 

菅野:こういったヴィンテージのテイストがあるファズにハイファイなパーツを使うのはいかがなものかと思いつつ、かといって安定入手できないパーツも嫌いなので、そのバランスが良いかなと思えるパーツですね。

 

ー何かキモになっているパーツはありますか?

 

菅野:この機種は何よりもトランジスタの選定ですね。必要数の3~4倍の数を買って選定していますから。

 

↑ファズは楽しく弾くのが一番ですね

・Rum and Coke

 

ー(5分ほど弾いてみて)最高ですね(笑)。後期型ラムズヘッド(Big Muff)のサウンド、と前もって聞いていたのですが、まさにそれですね。

 

菅野:ありがとうございます。

 

ー後期のラムズを知っている人ならもう何も言わずとも、という感じでしょう。

 

菅野:この機種は元になった個体があって、それを忠実に再現したという形ですね。

 

ーでは、Sustain、Toneの効きなどもそうでしょうか?

 

菅野:Toneに関してはまさにそうですね。端から端まで使えるトーンコントローラーということはその頃のラムズヘッドの特徴かなと。

 

ーオススメのセッティングは?

 

菅野:もう何も言わず、Volumeをガッと上げるだけですよ(笑)。まぁ、それは言い過ぎですが、ToneやSustainは使いどころ次第で、これはToneがどの位置でも使えるってことが一番良いところなので。

 

ーSustainは上げ目がオススメ?

 

菅野:そうですね。ただ、Sustainを下げた時の音も悪くはないはずです。

 

ーそうですね。そこはヴィンテージのラムズヘッドより良いところだなと思いました。この音を聞いたら内部のことなんてどうでもよくなるんですけど、一応裏蓋を開けてみましょうか。

 

菅野:そう思ってもらえるのが一番嬉しいですね(笑)。

 

ーあ、でもレイアウトが綺麗ですね。

 

菅野:抵抗を一列に並べるのもオリジナルラムズヘッドのオマージュみたいなものですね。抵抗値などの定数も全て元になった個体と同じです。

 

ーラムズヘッド愛が溢れる一台ということですね?

 

菅野:ラムズヘッド愛というか、元になったその個体が好きだったんです。他にもラムズヘッドを再現したエフェクターや、オリジナルのラムズヘッドも弾いたのですが、あまりピンとこなくて。一番好きなラムズヘッドの音がする個体でした。

 

ートランジスタはその元になったというラムズヘッドと同じ2N5087ですが、ここにも何かこだわりはありますか?

 

菅野:増幅値の異なる2社のトランジスタを使い分けています。初段は少しゲインの低いものを採用していますね。

 

ーあと外観のデザインも特徴的ですよね。

 

菅野:まつだひかりさんにデザインをお願いしています。元々、以前のRum and Cokeもまつだひかりさんのデザインで、それの復刻を希望する声が多かったので。

 

↑何を笑っているのでしょう?

・Fcon-V

 

菅野:まず、これはバッファードバイパスです。

 

ー確かに、バイパス音が艶やかですね。

 

菅野:この機種はバッファーを入れることにこだわりがあったんですよ。というのも、歪みの後にかけるトータルコンプとして考えているので。

 

ーなるほど。このLimitコントローラーはどんな効果を得るものなのでしょうか?

 

菅野:コンプレッサーで抑える最上限の出力レベルを決めるものですね。

 

ーThresholdとはまた別?

 

菅野:Thresholdはコンプレッサーが効き始めるレベルを決めるものですね。Limitが時計回りいっぱいになっている時は出力に制限を設けない状態で、そこから反時計回りに回していくと出力に制限がかかってきて、音量も小さくなったように聞こえるはずです。Limitはいうならば、音量をある一定にする機能の中の“一定”を決めるツマミですね。

 

ーでは、Gainはどのような効果でしょうか?回路への入力レベル?

 

菅野:いえ、入力レベルではなくて、コンプレッサーの回路内で音量を上げるのがGainです。Limitを下げた時に音量を持ち上げる時に使います。最終出力にあるVolumeコントローラーでも音量が調整できます。

 

ーSensitivityスイッチは?

 

菅野:スイッチを切り替えると、アタックタイムとリリースタイムが同時に変わります。セッティングによって感じ方は変わりますが、真ん中のポジションが両タイムが一番早く、下のポジションでは一番遅く、上のポジションではその中間となります。

 

ーかなり本格的なコンプですね。オススメのセッティングがあれば教えてください。

 

菅野:Thresholdは弾き始めてしまえば影響してこないのですが、サスティンが自然なのが12時くらい、Ratioは1:1.5くらいの位置、Limitは3~4時くらい。ただ、コンプレッサーのパコパコした音色はLimitの具合で生まれるので、その感じが好きではない人は上げ目にして、カッティングのキレを求めたいって場合は少し下げ目が良いかもしれません。Sensitivityスイッチは特に狙っている音色が特殊でなければ、真ん中のポジションが良い気がします。

 

ーGainなどの位置はどうでしょうか?

 

菅野:Volumeは上げていた方が音質的には有利なんですけど、この回路はプレゼンスがすこし持ち上がる感じで増幅されるので、ちょっとハイがうるさいなと感じるときはVolumeを絞ってGainで音量を稼ぐと少しウォームな感じになりますね。

 

ーモデル名の由来は?

 

菅野:DEFCON(アメリカの国防総省が設けた戦争準備態勢を5段階に分ける規定)からですね。そこにブランド名の頭文字を付けてFcon-V。DEFCON 5の本来の意味は平常時のことなんですけど、音を平常な状態に整える、という意味ですね。

 

 

↑説明書のグラフを見ながらコントロールの解説です

・Deluxe Preamp

 

菅野:これはFenderアンプのインプットにそのまま繋ぐと、少しクセが強く感じるかもしれません。ツイード期のFenderアンプを再現したので、歪む上にバリバリっとした質感になりますね。

 

ー(Twin Reverbのインプットに繋いで使用して)確かに、クセが強いかもしれませんね。でも、あまり歪ませないようにセッティングすれば良い感じですよ。

 

菅野:こんな広く歪み量の幅を取っておいてなんなんですけど、歪ませない方が使いやすいですよ(笑)。往年のブルースサウンドが好きって方は歪ませる方が良いですけどね。

 

ー具体的にFenderのどの機種を元にしたのでしょうか?

 

菅野:Bassmanを元にしてはいたんですけど、そのままだと扱いづらいし、かといってBassmanから外れすぎると僕の作りたいものと違ったので、そこにDeluxeの要素も足した感じですね。

 

ー菅野さんのオススメのセッティングは?

 

菅野:まず、アンプのリターンに挿します。

 

ー(Marshall JCM2000のリターンに挿した状態で弾いてみて)あ、なるほど。この使い方は納得ですね。

 

菅野:Twin Reverbのインプットに入れると、そこで歪みが起きてさらにバリッとしちゃうんですが、リターンではDeluxe Preamp側でボリュームを上げてもそこまで歪まないので。

 

ー最初からリターンに使う想定で設計されたのでしょうか?

 

菅野:スタジオにアンプを持ち込めないって時に、JC-120やMarshallのリターンで使っていつでも同じ音を出したい、自分好みの音にしたい、ってことに向けて作っています。

 

ーじゃあ、まさにプリアンプということなんですね。

 

菅野:そうですね。それこそフットスイッチを付けなくてもいいくらいだったんですけど、そこには付けて欲しいという要望があって。

 

ーでは、オススメのツマミの設定はどうでしょうか?

 

菅野:この機種はシンプルに楽しむなら、全部12時くらいで良いのかなと思っちゃいますね。もっとクリーンにするならVolumeを9~10時くらいに。Fatを絞るとよりブライトなトーンになると思います。

 

ー中も開けてみましょう。この機種はFlying Teapotの他の機種で見ないようなパーツが多く入っていますね。

 

菅野:そうですね。Fenderのアンプを意識したパーツ選択ってこともありますし、この機種はパーツ点数が少ないので、サイズの大きなパーツが使えました。

 

ーこの二つのトリマーは?

 

菅野:それはいじらないでください。FETを安定動作させているものです。

 

ーそうなんですね。ところで、このツイードの生地を貼った筐体って、どうやって作っているんですか?

 

菅野:これ、死にそうになりながら自分で貼ってます....この生地の接着剤にアレルギー持ってるので、作業後に2~3日は涙と鼻水が止まらなくなります(笑)。

 

↑アンプのリターンに挿して試しています

・Jubilee Preamp

 

ーこれは言わずもがな、Marshallのアンプ、Jubileeを再現したエフェクターですね。

 

菅野:この機種こそ、アンプのリターン推奨ですね。インプットに使うと極端な音になりがちです。

 

ーでは、今回はMarshall JCM2000のリターンで使ってみましょう。

 

菅野:はい。もしJC-120でも、リターンの方が良いと思います。

 

ーこれは常にONになっていて、フットスイッチでチャンネルの切替を行う形式なんですね。回路上では具体的に何を切り替えているのでしょうか?

 

菅野:アンプのJubileeって回路が結構特殊で、プリアンプの増幅の初段、二段目までは各チャンネルで共通なんですけど、三段目をバイパスするかどうかでLeadチャンネルとRhythmチャンネルを切り替えてるんですね。この(Flying Teapotの)Jubileeでもそれを切り替えているんですけど。

 

ーえ?じゃあこのJubileeって、MarshallのJubileeの音色だけでなく、回路までも再現しているんですか?

 

菅野:そうですね。ゲインステージとかは全てオリジナルのJubileeを元にして、それをFETに置き換えて作っています。

 

ーFETを何石使った回路になるんですか?

 

菅野:4石です。Leadチャンネルでは4石使っていて、クランチ・チャンネルでは3石。まぁ、厳密には4石使っているんですが。

 

ーそもそも、なぜJubileeを作ろうと思ったんですか?

 

菅野:何度も弾いたことがあって、音のイメージがし易かったので。Jubileeって結構特殊なアンプで、ハイゲインって呼ばれてるんですけど最近のモダンハイゲインとは違って、バリッとした歪みでやらた音がデカイ、みたいなアンプなんです。でも、実際にこの機種を作るにあたってもう一回弾いてみると、音の幅が広いアンプだと思ったんですね。ただ、この機種は本当に苦労しましたね。完成まで2~3年かかりましたよ。

 

ーそんなにですか!?具体的にどんな点で苦労したんですか?

 

菅野:音量の調整をするために増幅段を足したり、FETの歪みを整えたり。あと、Presenceを付けて欲しいという声を頂いていて、でもPresenceってプリアンプの領分じゃないじゃないですか?実際のPresenceはパワーアンプ部の帰還のところをコントロールしているので。でも、それをプリアンプの歪みのステージの中で作ったりとか、回路設計的にかなり大変でしたね。

 

↑解説にも熱が入ってきましたね

・59 Preamp

 

ーこの4つのインプットは実機のMarshall 1959と同様ですね?

 

菅野:はい、ハイトレブルとノーマルのチャンネルと、それぞれにハイ/ローのインプットですね。もちろん、各インプットをパッチで繋いでチャンネルリンクもできます。

 

ー内部の構造も実機の1959と同じになっているんですか?

 

菅野:はい、回路もインプットごとに別になっています。

 

ーこの機種を作ろうと思ったきっかけはなんでしょうか?

 

菅野:寝る前にこの外観のビジュアルが目に浮かんだんですよ(笑)

 

ー音をベースに考えて回路を作ったら1959に似たのか、それとも1959の回路を作ると音が似たのか、どちらだったのでしょうか?

 

菅野:この機種に関してはとにかく見た目先行ですね(笑)。このビジュアルで作りたいってことがあって、そう思った次の日にはパネルの真鍮板を発注していて、回路は後からついて来ると思って、とりあえず試作をしてみたらその時点で素直に音が良くて。回路としては1959の回路をFETに置き換えて、インプットの仕様から何から忠実に再現していったという感じですね。

 

ーイコライザーの部分もオリジナルと同じですか?

 

菅野:そうですね。そこもオリジナルと忠実に作っているので、そんなに効かないBassコントローラーだったり、上げていくとローが削れていくTrebleコントローラーになっています(笑)。そこらへんは本当に実機のアンプっていう感じですね。

 

ー(音を出してみて)あ、でも何も考えずに使っても納得という感じの音ですね。実機を知っている人ならすぐにピンと来るはず。

 

菅野:ありがとうございます。

 

ーこれって、単独で音作りする用途で作られたんですか?それとも、オーバードライブなどの他のエフェクターと併用も考えられているんですか?

 

菅野:これはプレキシの代わりになるように、って思いで作っています。プレキシを直で弾く人もいますし、その前にTS系のオーバードライブを入れるのもポピュラーな使い方ですよね。単独だとどうしても歪み量は少ないので、ファズとかも合います。

 

ーオススメの使い方はどんなものでしょうか?

 

菅野:まず繋ぐ先はアンプのリターンがオススメですね。特にEL34のMarshallのリターン、そして4発キャビの状態です。プレキシの音って、どうしても4発キャビ込みの音でもあると思うので。最初はチャンネルリンクはせず、使い難いと思うかもしれませんがハイトレブル側のインプットに挿した音を聞いてもらって、そこからギターのボリュームもいじりながら弾き込んでいくうちに良さが解ったりすることがあると思います。そこから、ノーマルチャンネルとチャンネルリンクしてローを足してあげると、一般的に使いやすい音になるのかなと思います。

↑各チャンネルのサウンドを確認中

〜その後〜

(一通りペダルを弾き終わったあと、某カフェにてブランドについても迫っていただきました。)

 

ー 好きなエフェクターブランド、メーカー、他社製品で好きなエフェクターはありますか?

 

菅野:もちろん、ありますよ。トータルでって意味ではBOSSが好きです。

 

ー 一番好きなブランドがBOSSですか?

 

菅野:そうですね。BOSSのエフェクターは好きですよ。

 

ー 好きなエフェクターというと、何が思い浮かびますか?

 

菅野:う~ん... 結構色々ありますよ。ただ、「どれもいいな」みたいな気持ちですね。「これはこういった使い方があっていいよね」ってことがどれにも言えると思います。それとは別に、造りが良いか悪いかという視点で見る機会は多いですけどね。

 

ー ブランドを興す以前、エフェクターの自作を始めたのはいつのことでしょうか?

 

菅野:僕が19歳前後の時、10年くらい前ですね(※2019年現在)。

 

ー なぜ、自作をしてみようと思ったのですか?

 

菅野:暇だったんですよ(笑)。まぁ、手作業で物を作るのはすごい好きなんですよ。大学も物理系だったので、電気回路の知識も最低限はあって、回路図を見るのも好きで、「作れそうだから作ってみるか」みたいな。ちょうどその頃って、Z.VEXとかハンドメイドのエフェクターが流行っていた頃なので、買うと高っけえなぁと思ったりしていて。

 

ー その頃、どんなエフェクターを作っていたんですか?

 

菅野:一番最初は、それこそZ.VEXのSuper Hard On(シンプルなブースター)でしたよ。そのあとはBlues Breaker(Marshall)、Tube Screamer(Ibanez)、Centaure(Klon)、メジャーどこは全部作ったと思いますよ。

 

ー そのエフェクターの自作を仕事に変えようと思ったのは、どんなことがきっかけになったのでしょうか?

 

菅野:その頃、SNSに作ったものをアップしていたら欲しいって言ってくれる人がいて、バイト程度の感覚で作ったら売るってことをやってて、それが楽しいな~と思ってて。それの延長でって感じでしたね。僕以外にもSNSで自作をやっている人たちがいたんですけど、良いとは思えないものもあって、それだったら自分でちゃんとしたものを作りたいな、と思っていましたね。

 

ー それは自作を始めてどれくらい経ったあとのことでしたか?

 

菅野:一番最初は自作をやり始めて3年後とかですかね。

 

ー そして今、Flying Teapotのエフェクターはどのようにして作られているのでしょうか?

 

菅野:自宅に作業スペースを設営して、そこで作ってますね。自分で設計して、基板、筐体、パーツを発注して、よし作るぞ、みたいな感じですね。

 

ー 完全に一人で作っているんですか?

 

菅野:いえ、手伝ってくれる人を一人、雇っています。

 

ー 具体的に、菅野さんは作業のどこまでの工程を担当されるのでしょうか?

 

菅野:時間が許す限りは全部の工程をやってますけど、設計に集中している期間中、簡単な作業は僕がやってないこともあります。

 

ー エフェクターを設計する際はどんな工程を辿るのでしょうか?

 

菅野:まずどんなエフェクターを作ろうかってことを考えて、回路のアイディアをいくつか出します。その回路の中でここが要所になるだろうな、って部分を変更しやすい状態のプロトタイプを作って始めます。

 

ー では、最近で設計したものを例として、具体的にどんな工程を辿ったかお伺いできますか?

 

菅野:じゃあ、FUZZにしましょうか。あれは最初にFuzz Faceを作ってみて、これをどうしようか、みたいなところから始めます。うちのブランドでただのシリコントランジスタのFuzz Faceを出したところでつまらないし、出す意味もない。だったら、異なるキャラクターを持ったファズにしてみようと思って、Fuzz Faceの回路の前段にトランジスタを1石追加して、Tone Bender風の音を付け足したものを作ってみようとなりました。それを作った上で、その内部のトリマーにしていたもののうち、これをコントロールできたら面白いなと思うものをツマミとして外に出しました。

 

ー そういった新しいエフェクターを作ろうと思うきっかけはどんなことなのでしょうか?

 

菅野:他の人が作っているものを自分が作っても仕方がないので、今は何を作るべきかな、足りてないものは何かなということを考えて、作っています。

 

ー エフェクターを作る上で、そのインスピレーションはどんなことから得ているのでしょうか?

 

菅野:サウンドに関しては自分の中にある良い音ってのが第一です。

 

ー それは聞いてきた音楽から得ているものでしょうか?

 

菅野:そうですね、音源ってイメージが強いですね。もちろん、好きなアーティストさんのライブでってこともあるんですけど、逆に好き過ぎる人だとあまり参考にならないんですよ。今良い音が出せている人には、その人の感性のまま自分が好きな音を自分で探して欲しいと思っていて、その上でもし僕が作るエフェクターを選んでもらえたら嬉しいと思います。

 

ー 具体的にインスピレーションを受けた音源、アーティストっていうと、どんなものでしょうか?

 

菅野:最近は80年代のポップスばかり聴いていますね。それこそ歌手の人になっちゃうんですけど、大貫妙子とか竹内まりあとか山下達郎とか、そういった人たちの音源は本当に音が良いと感じます。

 

ー 機種にもよると思いますし、本来は限定すべきではないと思いますが、先のインスピレーションの元に作られているFlying Teapotの製品は強いて言えばどのようなプレイヤー、カスタマーに向けて作っている、といったような意識はありますか?

 

菅野:う~ん、なんでしょう。僕はプロフェッショナルというより、プロになりたい人、アマチュア、ペダルが好きな人に向けて作っているのかもしれません。例えば、59 Preampなどのプリアンプ・シリーズは、プロであれば実機を持ち込んでレコーディングでもライブでもできるでしょうから、それがなかなかできない人だったりとかですね。

 

ー 話に出たプリアンプ・シリーズは、今後も新機種をお考えなのでしょうか?

 

菅野:出すつもりではいます。

 

ー プリアンプシリーズを続けるのはなぜでしょうか?

 

菅野:いろんなアンプの音を知って欲しいってことですね。最近、デジタルシミュレーターが流行ってるじゃないですか?ただ、そのシミュレーターってトーンのスタックが使いやすくなっていたりだとか、アンプのトーンではなくて後から付けたアクティブのEQみたいな感じですね。59 Preampも然り、実機の使い難さも含めて質感を楽しんで欲しいなと思います。

 

ー 今後はどんなアンプに着手するんでしょうか?

 

菅野:王道から入っていこうとは思っているんで、Vox、Orange、あとはブラックフェイス期のFenderかなと考えています。

 

ー アンプ自体が好きなんですか?

 

菅野:強い機材が好きですね(笑)。

 

ー 強い機材(笑)。

 

菅野:エフェクターももちろん好きなんですけど、そういった意味では「高いアンプ!、高いギター!」みたいなものは好きですね(笑)。アンプはCAEのOD-50、Two-Rockとか好きですし、ヴィンテージのFender、Marshallも好きです。ただ、やっぱり家では弾けないですよね。そしてスタジオにもライブハウスにもない。どこにでもあるのはJCやリターンの付いたMarshallなので、そういったアンプでも良い音を作れる機材ってことは良いことなのかな、って思いますね。

 

ー ギター本体も結構お好きなんですか?

 

菅野:好きですよ。8年くらいメインで使っているのが少し改造したSadowskyのストラトなんですけど、WarmothのネックとMJTのボディで組んだコンポーネントギターが1本、最近は知り合いにオーダーしたマニアックなものがありますよ。

 

ー でも、やはりエフェクターが好き?

 

菅野:もちろん、エフェクターも好きですよ。ただ、良い音が出る機材全般が好きって感じですね。そして、その良い音の傾向がお金かかってる音楽の良い音、って感じが強いかもしれませんね。80年代のポップス然り、昔の洋楽然り、良いスタジオで録られたリッチな音。あと、自分の周りにスタジオ系の人がまた多いんですよね。味があって良い音ってことより、理に適った良い音を追求することが多いかもしれません。

 

ー 思考が感覚的ではなくて、理論的なんですね。

 

菅野:そうですね。

 

ー Flying Teapotのエフェクターは、ミニスイッチのレイアウト一つをとっても非常に丁寧に作られているように見えます。総じて、そういった細かいことを気にする人がデザインしているのかな、という感じを覚えるのですが、実際はどうでしょうか?

 

菅野:工業的なデザインにしようとは思っています。ハンドメイドのエフェクターってガレージっぽいイメージというか、ちゃんとしてなくても良い、っていうようなイメージもあるじゃないですか。足で踏む分、壊れる可能性もあるので、丁寧に作りたいなとは思っていますね。

 

ー 外観のデザインもご自身でやっているんでしょうか?

 

菅野:そうです。ただ、装飾性が高過ぎないようにはしています。

 

ー そのデザインのインスピレーションの元になるような物事はあるのでしょうか?

 

菅野:その時に好きなもののイメージが強く出たりしますかね。例えば、Delta Driveは僕が三角形という形がすごく好きなんで。

 

ー え?どういうことですか?(笑)

 

菅野:三角形、綺麗じゃないですか(笑)。それで三角形をデザインに取り入れたくて、とかですね。あまり考えていないのかもしれません。ユーザーに見た目で音のイメージを固めて欲しくないってこともあるので。

 

ー Flying Teapotの製品全てに共通することがあるとすれば、それはどんなことでしょうか?

 

菅野:ただエフェクターを繋いだら良い音が出るってことじゃなくて、そのエフェクターを繋ぐことでギターを弾く人がギターのことをもっと好きになってくれるようなエフェクターを作ろうとは思っていますね。例えば、ギターのボリュームやトーン、ピックアップのセレクターを操作すると楽しいだとか、そのエフェクターを使うことでアンプの楽しみ方が変わったりだとか、そんなエフェクターを作りたいですね。

 

菅野さん自身がそういったエフェクターの使い方をするプレイヤーなのでしょうか?

 

菅野:そうですね。1つのエフェクターを何時間も色んな方法で試して楽しむタイプですね。

 

ー Flying Teapotがラインナップするエフェクターの中には筐体がアルミ削り出しで作られているものも多くあると思うのですが、それをあまり声だかに言ってないですよね。なぜアルミ削り出しの筐体を採用しているのでしょうか?

 

菅野:オリジナルの筐体を作りたいって時にステンレスブロックなどは削り出すのが大変なので、掘削性の点からアルミが候補に上がりやすかったのですが、アルミ削り出しをやってみるとあまり優位性を感じなくて、最近のラインナップはステンレスの板金で作られた筐体になっていますす。

 

ー 具体的になぜ、ステンレスの板金に移行したのでしょうか?

 

菅野:ここで音がどうのこうのって話もできれば良いのですが、それよりも板金で作るコの字型の筐体だと組み込みがし易いんですよ。あと、裏蓋を止めるネジが4箇所も要らないんだよな~と思っていて、2箇所に減らそうと思った時にもやはりコの字型の筐体の方が安定性が良かったんですよね。

 

ー ステンレスという素材を選んだのは、強度の面からでしょうか?

 

菅野:一番は強度ですね。それと見た目です。ヘアライン加工をする上でステンレスが一番綺麗なのと、アルミと違って酸化しないので色がキラッとしたままなんです。

 

ー Flying Teapotのラインナップ全てに共通してこだわっている部分、パーツなどはありますか?

 

菅野:全製品で共通して使っているパーツってなるとジャックとフットスイッチくらいですけど、現行で一番品質が良いと思えるものを使っていますね。エフェクトがOFFの時でも通る場所に使うという意味で間違いない選択かなと。

 

ー そういったパーツを選ぶ基準はどんなことなのでしょうか?

 

菅野:実はパーツのことをユーザーに伝えることがあまり好きではなくて。というのも、使用するパーツで付加価値を生むことは全然良いことだとは思うんですけど、あのパーツを使っているから良いとか、ヴィンテージパーツ使ってるから良いとか、そういったことで音の判断をして欲しくないんですね。そのパーツの音が良いということは認められるんですけど、「この音だったらもう開ける必要ないじゃん」って感覚を持った上で、でも好きな人が裏蓋を開けた時に僕が好きなパーツに気づいてもらえるくらいのバランスがちょうど良いのかなと思ってやってます。

 

ー つまり、各モデルそれぞれに拘っているポイントはある、と?

 

菅野:そうですね。ただ、パーツどうこうよりも3枚の基板を組み合わせて作る構造の設計が大変でしたけどね。フットスイッチを基板に直接付けるのではなく、ピン式にして、踏まれた衝撃をケーブルと基板で吸うようにしたりだとか、経年で割れる可能性のあるプラスチック製のジャック部分を修理しやすくしてあったりだとか。

 

ー エフェクターをデザインする上で、最も重要なことはどんなことだと思いますか?

 

菅野:きちんとしていることですかね。例えば、設計に無理がないこと。

 

ー その考え方って、どんな経験から来ているでしょうか?

 

菅野:性格もあると思うんですけど、やはり理系の大学にいたからってこともあるでしょうね。やっぱり、きちんとしてないと怒られるので(笑)。サウンドに関することは少し感覚的なことがありますが、ものの造りとしてはきちんとしているに越したことはない。安くはないものを作っているという自覚はあるし、それを買って次のステップに進んで欲しい、1台のエフェクターを手にしただけでエフェクターを嫌いにならないで欲しい、ハンドメイドなんてこんなものか、なんて思われないで欲しいので、造りはちゃんとしたいです。壊れるとイヤですしね。

 

ー 今後、Flying Teapotとしてどんなエフェクターが作りたいと思っていますか?

 

菅野:僕は新しいスタンダードになれるエフェクターを作りたいとずっと思っていて、例えばRATとか、Tube Screamerとか、Centaurとかと、並ぶようなエフェクターを作りたいと思っています。○○系のエフェクター、ってことも良いんですけど、それは何か代表作になるエフェクターがあった上で作りたいなと思っています。だから僕が作るエフェクターって、○○系ではあるんですけどそのままではなかったり、アレンジを大きく加えているものだったりするんですね。その上で新しい○○系、新しいスタンダードになるようなエフェクターを作りたいですね。